塀のすきまから覗くと、
裸電球だけの薄暗い中庭で
大勢の人が何やら太鼓を叩きラッパを吹き踊っている。
宗教儀式か?秘密結社のお祭りか?それにしては、賑やかだ。
しわくちゃな小柄の老人が、我々を招き入れた。
「中へ入れ、奥へ、奥へ。」
取って喰われるかとおどおどしていると、背中を押して半ば強引に引きずり込まれた。
中庭は人の熱気と太鼓のリズムで異様な雰囲気だ。
普段なら危険を感じて逃げ出すところだがここはタルーダントだ。
ままよ、と覚悟を決めた。
「ここに座れ、我々の伝統だ。ゆっくり見ていけ。」
人混みの中に仲良くなった例の靴磨きの少年も居た。
彼も我々に気付き、ほほえんできた。
なんの保証にもならないが、それでもちょっとはホッとした。
伝統的なセレモニーだというが、それ以上は分からない。
ともかく狭い中庭に男ばっかりが何十人も輪になって座り込んでいる。

その真ん中で5,6人が踊っている。
脇には大小の太鼓をならし、ラッパを吹き鳴らしている一団がいた。
比較的単調なリズムだが、力強く続く繰り返していく。
煙が立ち、なにやら香りも漂ってきた。
空中浮揚をうながすようなこの香りは覚えがある。
ハッシシュだ。
その煙が充満する中で、30分も経っただろうか。
輪の真ん中で踊っている老人が激しさを増して、乱舞しはじめた。
明らかにトランス状態に陥っている。
その老人は、極限までの体を震わせたかと思うと突然に地面に倒れた。
太鼓もラッパもそれが合図だったかのように静かになった。
セレモニーは突然にフィナーレを迎えたようだ。
静かな中でボーとしていたら、
近くのモスクから礼拝を促す大音響が聞こえて来て、
現実世界に我々も引き戻された。
結局何だか良く分からなかったが、ともかく別世界体験だった。
始めに中に引き入れた老人が声をかけてきた。
「どうだ。すごいだろう。よく参加してくれた」と声をかけて来た。
通りすがりの異教の人を伝統的なセレモニーに引き入れたここの人は、
不思議なほど優しく懐の深い人々でもあるようだ。
タルーダントからカサブランカ、へ
